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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)5067号 判決

主文

一  各原告の被告高橋和男に対する請求を棄却する。

二  被告高橋則夫、被告山根重機建設有限会社、被告山口忠一、被告東京重機株式会社は原告小野清一に対し、各自一一〇九万二、八四七円とこれに対する昭和四八年三月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告小野タケに対し、各自一、〇七八万四、五四七円とこれに対する昭和四八年三月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの被告高橋和男を除く被告四名に対するその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用中、原告らと被告高橋和男との間に生じたものは全部原告らの負担とし、原告らとその余の被告四名との間に生じたものは全部被告四名の負担とする。

五  その判決第二項はかりに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告小野清一に対し一、一五一万四、五三〇円、原告小野タケに対し一、一二〇万六、二三〇円と右各金員に対する昭和四八年三月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

昭和四八年三月二一日、長野県上水内郡信濃町野尻九一〇番地先路上で、被告高橋則夫(以下、被告則夫という)が運転していた貨物自動車(牽引部分「新一一や三〇三一」号、被牽引部分「新一一も一九」号、以下、あわせて加害トレーラーという)から被告東京重機株式会社(以下、被告東京重機という)所有の積荷であるクローラー(万能掘削機)が転落して、訴外小野孝三が運転していた普通乗用自動車に衝突し、このため乗用車が側溝に転落して孝三が負傷し、同日死亡した。

2  被告則夫の責任原因

クローラーをトレーラーに積むにあたつて、すべり落ちないように固定するのを怠つた。

3  被告高橋和男(以下、被告和男)の責任原因

加害トレーラーを所有し、自己のため運行の用に供していた。

4  被告山根重機建設有限会社(以下、被告山根重機)の責任原因

被告山根重機は被告則夫を従業員として、そうでなければ専属的に建設機械の運送を請負わせて、加害トレーラーをその営業のため運行の用に供していた。

5  被告山口の責任原因

(一) 被告山根重機は被告則夫を使用する者で、代表取締役である被告山口は右会社に代つて被告則夫の業務執行を監督する立場にあつた。

(二) 被告則夫は被告山根重機の事業の執行につき、前記2の過失があつた。

6  被告東京重機株式会社(以下、被告東京重機)

(一) 運行供用者責任

被告東京重機は本件クローラーの運送を運送免許のない被告山根重機に依頼し、同被告から下請した運送免許がなくて運送業の企業実体をもたず、運賃が破格に安い被告則夫を支配下にいれ、自己のため加害トレーラーを運行の用に供した。

(二) 使用者責任

被告東京重機の従業員はその事業の執行につき、旋回部分固定装置が故障し、重量もあつて運搬上種々の危険がある本件クローラーの輸送にあたつては、所定の自動車運送業の免許を有し、事業を自ら適確に遂行するに足る能力を有する業者を選定し、かつ、法所定の道路管理者の許可があることを確認したうえで運送を依頼すべき注意義務があり、また、従業員が本件クローラーを加害トレーラーに積込んださい、自ら、あるいは運送人に指示、指揮をしてクローラーを加害トレーラーに十分固定し、運送中は同乗して積載状況の安全性を確認すべき注意義務、それができなければ本件運送を中止させるべき義務があつたのに、無免許業者に安い運賃で輸送させようと企図して運送業者の選定を誤まつたほか、その余の各義務を怠つた。

(三) 注文者の責任

被告東京重機の従業員は既述のように、本件クローラーを運送する適格のない被告則夫に対し運送を注文したこと自体に、または安全な固定方法を指示すべきところを指示しなかつた点において指図につき過失がある。

7  損害関係

(一) 亡孝三の損害と相続

(1) 亡孝三の逸失利益

亡孝三は、昭和二六年一一月三日に生れ、事故当時二一歳、大学一年生であつた。昭和五二年三月に二五歳で大学を卒業し、六七歳まで四二年間働き、その間の所得として昭和四七年度賃金センサス中の大学卒男子労働者の年齢別平均賃金の合計額を得ることができたはずで、死亡時における現価(ホフマン式により中間利息控除)は四、〇八四万一、五二〇円となる。生活費として右金額の五割を控除する。

(2) 相続

原告らは孝三の父、母で、同人の権利を二分の一ずつ相続した。

(二) 慰謝料

(1) 原告清一分 二五〇万円

(2) 原告タケ分 二五〇万円

(三) 入院治療費、葬儀費

原告清一が支出した入院治療費八、三〇〇円と葬儀費五〇万円以上の金額の内金三〇万円

(四) 損害のてん補

原告らは以上の損害につき自賠責保険から、各自二五〇万四、一五〇円の支払を受けた。

(五) 弁護士費用

(1) 原告清一負担分 一〇〇万円

(2) 原告タケ負担分 一〇〇万円

8  まとめ

よつて、被告らが各自、請求の趣旨記載のとおり、不法行為に基づく損害賠償金とこれに対する不法行為日ごの昭和四八年三月二二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告則夫

1、2の事実は認め、7の事実のうち、(四)の点は認め、その余は知らない。

2  被告和男

1の事実は認める。3の事実は否認、加害トレーラーの所有者は弟である則夫の所有に属するが車庫を有しなかつたため、自動車登録上名義人になつたに止まる。7の事実のうち、(四)の点は認め、その余は知らない。

3  被告山根重機

1の事実は認める。4の事実のうち、被告が本件クローラーの輸送を被告則夫に下請させた点は認めるが、その余は否認、被告則夫は独立した運送業者であつて、業務内容においても従属していない。7の事実のうち、(一)の(2)、(四)の点を認め、その余は知らない。

4  被告山口

1の事実は認める。5の事実のうち、被告則夫に原告ら主張の固定をしなかつた点、被告山口が被告山根重機の代表取締役である点は認め、その余は否認、被告則夫は被告山根重機とは全く独立した運送業者で、本件クローラーの運送はその請負業務である。7の事業のうち、(一)の(2)、(四)の点は認め、その余は知らない。

5  被告東京重機

1の事実のうち、被告則夫運転の加害トレーラーが被告東京重機所有のクローラーを積載していた点は認めるがその余は知らない。6の事実のうち、被告東京重機の従業員である担当者が本件クローラーの運送を被告山根重機に依頼し、これを右被告会社が被告則夫に下請させた点、被告東京重機の従業員が本件クローラーを加害トレーラーに積込んだ点、輸送に当り、加害トレーラーに同乗しなかつた点は認める、その余は否認する。7の事実のうち、(一)の(2)、(四)の点は認め、その余は知らない。

第三証拠〔略〕

理由

一  交通事故の発生

請求原因1の事実は、原告と被告東京重機以外の被告らとの間では争いがなく、被告東京重機との間では、成立に争いがない甲第一〇、第一一号証、被告則夫本人の供述によつて右事実を認めることができる。

二  被告則夫の責任原因

請求原因2の事実は原告と被告則夫との間に争いがない。

三  被告和男の責任原因

本件全証拠によるも、被告和男は弟の被告則夫がトレーラーを購入して登録するにあたつて、便宜上自己の名義を貸しただけにすぎないことが認められるに止まり、請求原因3の事実を認めるに足りない。

四  被告山根重機、被告山口、被告東京重機の責任原因

1  事実関係

証人岡崎の証言、被告則夫本人の供述、被告本人兼被告山根重機代表者山口の供述、被告則夫本人の供述によつて真正に成立したと認められる甲第二号証、成立に争いがない乙第一号証、調査嘱託の結果によれば、被告山根重機は建設機械の貸付とこれに付帯する業務を営む会社で、被告山口がひとりで、五人ほどの従業員を指揮監督して一切の切盛りをし、注文に応じて自社所有の建設機械を貸付けるほか、他業者の手許の機械輸送を頼まれた場合は運転手付きで運搬車両の賃貸をするやり方で注文に応じていたこと、被告則夫は以前トレーラー運転手として会社勤めをしていたころから山口と仕事上の知合いとなり、勤めを辞めて自分で事業をするようになるまでの間には被告山根重機にも臨時運転手として時々出入りしていたこと、そういう過程のなかで則夫と山口との間に、山根重機にとつてその事業内容上、本件で問題となつているようなトレーラーの必要があるにはあるが常時保有するまではないという採算上の理由があつたため、則夫が購入して手がけるのであれば山口の方も力になつて仕事をとつてやろうという話ができ、山口が連帯保証して則夫が本件トレーラーを購入し、則夫個人で建設機械賃貸業を始めたこと、本件事故の前後を通じて、則夫の仕事の注文は山根重機から下請的にあるいは紹介という形をとつて回つてきた建設機械の運搬荷役がほとんどで、多いときは月二〇回くらいに達し、その料金の一部を電話代等の名目で山根重機が受取つたりしていたこと、被告東京重機は本社が東京で、新潟には山根重機のすぐ近くに支店をもち、大きな規模で建設機械や運搬荷役車両等の賃貸等を営んでいる会社であるが、この事故のときは、長野県飯田市から新潟市内まで本件クローラーを輸送する件を山根重機に依頼し、山根重機がこれを受けて則夫に回し、則夫において直接東京重機と所要事項を打合わせるように指示したこと、則夫は料金は一一万円でやつて貰いたいという東京重機からの申出を承知し、同社の担当者と必要な打合せをしたこと、東京重機側は山根重機にしろ則夫にしろ正規の運送業の免許を有しないことを知つていたこと、則夫は出発に先立つて、山根重機に仕事の段取りや料金のことなどを報告して行つたこと、飯田市の現場では東京重機のクローラー運転手岡崎が積込みをし、則夫とその助手の弟がロープかけするのを手助けしたこと、東京重機が他の業者に依頼していたときは、クローラーの積卸を含めて道中一切のことを任せきつていたが、この場合はさらに、岡崎が同僚運転の車に乗つてトレーラーを先導し、高さ制限のある道路工事現場に差しかかるごとにクローラーをおろし、運転して通過を図つて行き、その先道路工事個所はないというところまできて、則夫からあと新潟までは大丈夫だと言われて新潟に先行したこと、届先はまだ一定していなかつたため、則夫が新潟に着いたら東京重機に電話して指示を受ける手筈になつていたこと、則夫から事故発生の知らせを受けて、山根重機から山口、東京重機からは岡崎その他が現場へかけつけ、転落したクローラーの収容・運搬の処置をしたこと、料金一一万円は東京重機から山根重機に支払われ、その手を経て則夫が受領したこと、なお、この輸送の件を正規の運送業者である日本通運株式会社新潟重機建設事業所で請けるとすれば、二四万七、五〇〇円の見積り(ブーム運搬分五万一、五〇〇円を含む)になることが認められる。

2  責任問題の検討

(一)  被告山根重機、被告山口について

1で述べた事実を前提とすれば、則夫は山根重機の従業員ではないが、いわば子飼いの業者で、山口を核とする山根重機との人的関係、取引関係からその従属下にあり、山根重機と則夫との間には事実上指揮監督の関係があつたといえる。民法七一五条の適用上、山根重機は則夫の使用者であることを否定できない。そして、成立に争いがない甲第六号証の一、二、第八ないし第一一号証、第一四号証によれば、被告則夫に請求原因2の過失があつたことが認められる。なお、被告山口は山根重機に代つて、則夫を事実上監督すべき地位にあつたということができる。

(二)  被告東京重機

被告東京重機は、運送注文をした先の山根重機にしろ、そこから派遣されてきた則夫にしろ、正規の運送免許を有しない業者であることを知つていたのだから、そのような業者が運搬荷役車両を運転手付きで賃貸する形式をとつて必要事を果たすことは知悉していた筈である。クローラーの積込みに始まつて、途中までとはいえ従業員その岡崎が誘導付添い、事故発生ごは自からも事後収拾にあたらざるをえなかつたのは、受注者が正規の運送業者とちがい、原則としてその裁量に一切を任せきつてよいような独立した、あるいは独立可能な立場になかつたこと、それゆえに事情が要求する限度で運行を管理せざるをえなかつたことを物語るものである。この山根重機や則夫がとる建前からいつても、また本件トレーラーの運行の具体的態様からいつても、被告東京重機は本件トレーラーの運行を支配監督でき、すべき立場にもあつたといつてよいのであるから、運行供用者としての責に任じなければならない。

五  損害関係

1  孝三の損害と相続

(一)  孝三の逸失利益

成立に争いがない甲第一、第四号証、原告小野清一本人の供述によれば、孝三は昭和二六年一一月三日生れで、死亡当時大学一年生(当時二一歳)であつたことが認められる。右事実を前提とすると、労働可能年数を二五歳から六七歳までの四二年、推定される収入額はその経歴からして男子労働者の平均賃金を下ることはないであろうから、昭和五二年賃金センサス中の男子労働者の平均年収二八一万五、三〇〇円を基礎年収額とし、生活費は収入の五割として控除し、ライプニツツ方式により死亡時における逸失利益の現価を算出するのが相当である。

算出2,815,300×(1-0.5)×(178,800-35,459)=20,177,395

(二)  相続

甲第一号証、原告小野清一本人の供述によれば、原告小野清一は孝三の父、原告小野タケはその母で、同人の権利を二分の一ずつ相続したことが認められる。

2  慰謝料

原告らが父母として蒙つた精神的損害の額はそれぞれにつき二五〇万円と算定するのが相当である。

3  葬儀費、入院治療費

原告小野清一本人の供述により同原告が支出したと認められる孝三の葬儀費のうち三〇万円を本件交通事故に基づく損害として相当と認め、右供述と後述のとおり自賠責保険金の死亡限度額をこえて八、三〇〇円が支給されていることを合わせると、入院治療費八、三〇〇円が認められる。

4  損害のてん補

以上の損害につき自賠責保険から、各原告が二五〇万四、一五〇円ずつの支払を受けたことは当事者間に争いがない。

5  弁護士費用

各原告が訴訟代理人に支払うべき弁護士費用のうち七〇万円ずつを本件損害として相当と認める。

六  結論

原告小野清一の請求は、被告高橋和男を除く被告四名に対し(不真正)連帯して、不法行為に基づく損害賠償金一、一〇九万二、八四七円とこれに対する不法行為日ごの昭和四八年三月二二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当であるから認容し、右被告四名に対するその余の請求と被告高橋和男に対する全請求は正当ではないから棄却し、原告小野タケの請求は、右被告四名に対し(不真正)連帯して、不法行為に基づく損害賠償金一、〇七八万四、五四七円とこれに対する不法行為日ごの昭和四八年三月二二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当であるから認容し、右被告四名に対するその余の請求と被告高橋和男に対する全請求は正当でないから棄却する。民事訴訟法八九条、九二条、九三条、一九六条

(裁判官 龍田紘一朗)

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